(4)夕食での椿事《2月―銀色の休日》 ~2003年2月の記録 ∬第4話 夕食での椿事 食事を始めて5分ほど経った頃だろうか。 バチッという音と共に電気が消え、ロビーが真っ暗になった。 音は電気ストーブの辺りから聞こえてきたので、おそらく消費電力をオーバーしたためにブレーカーが落ちたのだろうと推測できた。 驚くよりなんだか可笑しくて、真っ暗な中での食事を半ば面白がりながら、辛抱強く電気が戻るのを待つことにした。 夫などはあまりの魚の活きのよさに、電気が戻る間ももどかしく、子供たちの口に骨が入らないようにと、手で骨と身をより分けながら口に運ぶのに夢中。 宿の主人だって、真っ暗な中で配電盤まで辿り着くのに時間がかかるのだろうと、私たちは鷹揚に構えていた。 しかし、夫が残りの魚を手探りで食べ終えてからも、電気の戻る気配も、宿の主人が顔を出す気配も一向にない。 痺れを切らせた夫がロビーのドアを開け、階段下から名前を大声で呼んではじめて、ようやく主人は事の次第に気付いたのだった。 地上階と上階とは配電盤が別々になっていて、階下で停電になっていることなどまったく気付かなかったというわけだ。 やれやれ、それならもっと早く声を掛けていればよかったと、余計な気遣いをしたことがまた可笑しく、朗らかな笑いの内に夕食を終えたのだった。 その晩、夜が更けるにつれ風雨が次第に強まり、雷鳴まで轟き始めたのを、うつらうつらとした眠りの中でさえ意識していた。 私は、眠りの中にありながらも、同時に翌日の予定についてあれこれ思い巡らしていた。 これでは舟など乗れないんじゃないか。カウノスの遺跡も嵐の中では見学不可能。行けるとしたら車で温泉ぐらいかなあ。 木製の窓枠が風でガタガタ音を立て、雷鳴や雨音が強まるたび、眠りから引き戻される私と夫は、「明日はどうなるんだろうね」と不安な会話を繰り返していた。 (つづく) |